江戸のパラダイス
江戸時代の末期に日本を訪れた外国人はその美しさにまるでパラダイスのようだと感嘆しました。
渡辺京二さんの著書「逝きし世の面影」(平凡社ライブラリー)には江戸時代末期、そして明治期に日本を訪れた西洋人の手記が数多く載せられています。
例えば、
「この独特で、比類するものもなく、スポイルされず、驚異的で魅惑的で、気立てのよい日本を描写しようとつとめながら、私はどんなにそれが描写しがたいか実感している。彼らのまっただなかでふた月暮らしてみて、私は日本に着いて二週間後に大胆にも述べたことを繰り返すほかない。すなわち、よき立ち振る舞いを愛するものにとって、この“日出ずる国”ほど、やすらぎに満ち、命をよみがえらせてくれ、古風な優雅があふれ、和やかで美しい礼儀が守られている国は、どこにも他にはありはしないのだということを。」(アーノルド)
「誰の顔にも陽気な性格の特徴である幸福感、満足感、そして機嫌のよさがありありと現れていて、その場所の雰囲気にぴったりと融けあう。彼らは何か目新しく素敵な眺めに出会うか、森や野原でもの珍しいものを見つけてじっと感心して眺めている時以外は、絶えず喋り続け、笑いこけている。」(ヘンリー・S・パーマー)
このように日本人の人懐っこさ、礼儀正しさ、教育水準、そして国土の美しさ、それらはどれをとっても西洋諸国に劣ることはなく、いえ、それ以上のものだったのです。
もちろん手記には日本人の中傷や批判も書かれているのですが、総じて日本の風土や日本人の人柄への賛嘆がほとんどです。
縄文と卑弥呼の世界
さて私はこのパラダイスとでも言える国は戦国時代を終え天下が統一され、江戸に泰平の世が訪れた徳川時代260年あまりの間にもたらされたものだとこれまで思っていました。
ところがそれが実は間違いであることが今回分かったのです。
それは千賀一生さんの著作「和の心 コズミックスピリット」(徳間書店)を読んで知ったのですが、3世紀に書かれた「魏志倭人伝」の中に江戸末期に日本を訪れた西洋人の賛嘆と同じようなことが書かれているとのことなのです。
そこには日本人(倭人)の特徴として、ものを盗むという行為がほとんど見られないこと、争いごとのないこと、そして丁寧な礼節や徳性の高さなどが書かれているそうです。
日本に儒教が伝来したのが5世紀であり、仏教が伝来したのが6世紀です。
つまりそれらが伝来する以前から日本人はそのような特性を持っていたのです。
ではそれは弥生時代となり大陸から来た人々によってもたらされたものなのかというとそうでもないようです。
というのもこの魏志倭人伝はかの有名な中国の歴史書「三国志」の中にある日本に関する記述の部分なのですが、同じく「三国志」の中にある「魏書東夷伝」は古代韓国について書かれており、そこには秩序なく、雑然としており、礼儀も欠けると記されているのです。
この「三国志」は儒教思想を背景に書かれたものだそうで、略奪と征服を目的とした西洋人ではなく、儒教の心を持った当時の漢人が日本人と会って、その徳の高さを賛嘆しているのですから驚くべきことです。
更にこの徳の高さが弥生以前からあるものであることの裏付けとして、古代遺跡を検証すると、弥生時代の遺跡からは殺傷された人骨は相当数見つかるものの、縄文時代の遺跡からは殺傷された人骨はほとんど見つからないとのことです。
つまり大陸から人々が渡ってくるまでは人間同士が殺傷するようなことはなかったということです。
このことから日本人が持つ徳性の高さは縄文時代からきているといえそうです。
その縄文時代ですが考古学の研究から1万2千年以上続いたという驚異的なものであったことが明らかになっています。
そして当時の文明もこれまで考えられた以上に高かったことが判明してきています。
高度な文明を持ち、なおかつそれだけの期間続くということは、それだけの何かを持っていたということです。
それはひとつは日本という国の風土には人々を穏やかにさせるものがあるということも言えるでしょうし、ひとつは縄文時代(あるいはそれ以前)に養われた人々の精神からもたらされてきた賜であるとも言えるしょう。
世界最古の王朝
さて、少し話が変わりますが、世界最古の王朝はどこかというと、実は日本の天皇家なのだそうです。
その歴史をさかのぼると紀元前660年の神武天皇から始まり、現在まで約2700年間続くものとなります。
神武天皇は実在した、しなかったとの諸説ありますが、大和政権最初の天皇である第10代崇神(すじん)天皇を始まりとしても、その歴史は1500年以上続くものとなります。
(源頼朝や徳川家康などの歴代将軍は征夷大将軍であり、あくまでも朝廷から政治を任された代理人なのです。)
その天皇家ですが古事記や日本書紀からすると、天皇(神武天皇)とは天照大御神を祖先とし天孫降臨してきたとなるのですが、実際のところそのルーツはおそらく大陸からやってきたというのが事実なのでしょう。
そして天皇一族も日本列島が元来持っていた風土と日本人の精神に和えられ、それだけ長く続くものとなったといえるのではないでしょうか。
そしてその王朝のもとで江戸幕府は開かれ、やがて極東のパラダイスが作り上げられるのです。
こうして見ると日本は、1万年以上続く縄文時代を持ち、更には世界最古の王朝を持ち、人々からパラダイスと呼ばれる国を作り上げるという歴史を持つ世界に誇れる文化を持つ国なのです。
明治維新から現代へ
けれどもそのパラダイスは明治の開国と同時に西洋諸国によって潰しにかかられます。
日本としては明治維新とは文明の夜明けであり、西洋文明を正面切って取り入れ富国強兵政策によって世界の大国と肩を並べること、独立国を維持することを目的としたのでしょうが、西洋諸国の資本家・政治家・貴族からすると極東にある国の侵略と略奪が第一の目的であり、更にもう一歩突っ込めば、彼らの国民に極東にあるパラダイスの実態が広く知れ渡ることによって、新たなる市民革命を起こされてはたまらないという思いもあったのではないでしょうか?
こうして日本は西洋文明を取り込む道を歩むこと150年。その結果が現在の日本ということとなります。
それでは現在の日本とはどのような国で、どのような状況にあるのでしょう。
太平洋戦争後の復興からアジアで唯一の先進国の仲間入りをしました。
一時はアメリカを追い抜かんばかりの経済力を身につけもしました。
けれどもバブル崩壊後、経済は停滞し続け、社会は混とん化していきます。
そして今では格差が広がり、子供の貧困が問題視され、更には不可解な事件が度々発生する不安定な社会となっているのが現状です。
もちろん西洋文明の流入は悪いことばかりをもたらしたわけではありません。
科学は様々な進化をもたらし、私たちの暮らしはとても便利なものとなりました。
平均寿命は著しく伸び、国民の大半が長生きできるようになりました。
そこには日本人の持つきめ細やかさ、真面目さも加わり、科学技術の発展に寄与したこともあります。
更には民主主義も取り入れられ、一人ひとりの人権が意識されるようになりました。
美の世界にも西洋の美と和の美がミックスされ新たな美が生まれました。
そしてこれまで感覚でとらえていた物事を論理的にとらえ、言葉で表現できるようにもなりました。
つまり日本のこれまでの曖昧であったカタチのいくつかを論理的に言葉で説明できるようになったのです。
世界の状況とその未来へ
さて現在日本は先の見えない中にいるわけですが、それは日本だけではありません。
西洋諸国を中心に世界中で行き詰まり感が漂っています。
政治的、経済的、社会的、そして環境的にも行き詰まりを呈しています。
ひと言でいえば西洋文明を主とした世界の限界がきているといってもよいでしょう。
そして世界はそこから抜け出せずにもがいているのです。
ただ地球の現状~水の汚染、大気の破壊、空気の汚染、大地の破壊と汚染~からして現在求められている進化は、地球にやさしい、あるいは地球に負荷をかけないサスティナブル(持続可能)な世界の構築であることは間違いありません。
そして大半の人類が常に求めているのが安全と安心のある暮らし、つまり平和です。
けれども世界は経済競争と金融競争の覇権争いが繰り広げられ、今も領土問題やや宗教対立から抜け出せず、そこに至れないのが実情です。
そこへの道のり(価値転換の方法)を見いだせずにいるのです。
そこで私が思うに今こそ日本人の力が必要なのです。
世界の人々は穏やかに暮らせる平和を望んでいるのです。けれどもそれが実際に作られた例はほとんどありません。
たとえあったとしてもごくわずかな期間ですし他を犠牲にした上に成り立ったものがほとんどです。
それに比べ日本の縄文時代は1万2千年以上続きました。
それは自然を基盤とし、自然と共にある世界でした。
そして大陸から様々な人々が流入してからも江戸時代には再びパラダイス世界を築きあげたのです。
日本人にはその風土と共に自然と調和するDNAが宿っているのです。
日本が西洋文明を取り入れ150年となりますが、それは日本の歴史からするとごくわずかな期間です。
それにこの150年の間にも東南アジア各国の植民地からの独立に一役買いましたし、大半の日本人が総中流意識を持ち平和な暮らしを送った時期もありました。
この間西洋文明の良い面も悪い面も見て、体験してきました。
様々なことを学んできたのです。
それらを上手に調和させたものも数多くあります。
世界が行き詰っている今こそ、日本人の持つDNAのスイッチを再びONにし、西洋人にも分かりやすいカタチで発信し、みんなで地球パラダイスを創造する。
それがこれからの日本人に託されていることだと思うのです。
そのために私たちは日本の世界に誇れる歴史を振り返り、かつて日本人が持っていた心を取り戻すこと。
そのことを意識し、明るい未来を歩んでいきましょう!